日独の書店を比較して見えてきたもの

 2020年から仲間と「のろいをとくための読書会」という会を継続実施している。

 今問題がある社会の構造にのまれるよう誘導するものを「のろい」ととらえ、自分自身を肯定・勇気づけ、自分にとって必要な言葉や解決策を探し、意見を表明・問題を解決できるようになる=「のろいをとく」ことを目的とするものだ。読書や議論だけでなく、一緒に美味しいものを食べたり、身体を動かしたり、車を運転してきれいな景色を見に行ったり、その活動・試行錯誤は多岐にわたる。

 

 実はこの会の元々の始まりはドイツ語の5歳児以上向けの性教育・思春期教育(Aufklärung、Pubertät)の本を読むことだった。そのため先日ドイツに行った際に、せっかくだから仲間に共有しようとドイツの書店の性教育・思春期教育の棚の一部を写真に撮ってきた。

 『両親が離婚したら?』『怒りってどんなもの?』『ママのお腹にいたの?』『どうして不安になるの?』『しってるよ!―わたしのからだ』など。

 性的なものにとどまらない身体についての本や、感情についての本、生活の中のシビアな状況をどう乗り越えるかを扱った本など、子どもや若者が自分の心身と向き合うための本が普通に並んでいる。

 

 けれど別の機会に日本の書店で子ども・若者向けの棚を見てあまりの違いに驚いてしまった。自分や他人の心身に関する本と言えば、『子どもを守る言葉「同意」って何?YES、NOは自分が決める!』という翻訳書一冊だけ、その他に並んでいる本のほとんどはドリルや参考書だった。もちろんドリルや参考書もまた大事な本だが、とにかく扱いの差が大きかった。

 

 例えば、日本語でも2020年に『おうち性教育はじめます 一番やさしい!防犯・SEX・命の伝え方』、2022年に『おうち性教育はじめます 思春期と家族編』という、性教育の良書が出版されているが、この本は子育ての棚にあった。同じく2020年に出版された『10代から知っておきたい あなたを閉じこめる「ずるい言葉」』は自己啓発の棚だ。

 性教育・思春期教育に関する本がないわけでも、興味や需要がないわけでもない。が、それをどう分類すればいいのか、まだクリアになっていないのかもしれない。

 もちろん、この店や顧客層の傾向によるものかもしれないし、今どきわざわざ店頭で本を買う人も減っている。しかし、私自身もまた、自分や他人の心身について学ぶというジャンルがあることを知らず、その情報にアクセスできずにこの年齢になってしまったという自覚がある。

 

 ドイツあるいは「あちらの」教育というと、何か全てを解決できるメソッドを求めてしまいがちだが、5歳児から読むそのごくごく普通を、改めて学んでいきたいと思う。

 

(坂田尚、2023年、北海道エスペラント連盟「Heroldo de HEL」第205号掲載)